建築業の脱炭素は、完成後だけではありません
資材・施工・運用・解体まで。まずは測れる排出量から始めます。
建築業のカーボンニュートラルは、建材の製造・調達、施工、建物の使用、改修、解体まで、ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を捉え、削減していく取り組みです。
対象
資材製造〜解体
最初の算定
Scope1・2
実務への定着
4つの手順
中小建設会社の4ステップを見る
建築業におけるカーボンニュートラルとは
設計会社、工務店、ゼネコン、不動産会社では、自社が管理しやすい排出源が異なります。まずは燃料や電力の使用量を把握し、設計・資材・施工・運用のどこから改善するかを決めることが現実的な第一歩です。
建物のライフサイクル全体で排出量を捉える
建築物は、つくる前から解体までが削減対象です
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から吸収・除去量を差し引き、全体として実質ゼロにする考え方です。建築物については、資材製造、施工、使用、解体までを通じた「ライフサイクルカーボン」で考える必要があります。
この視点に立つと、空調や照明の省エネだけでなく、資材の選定、重機や車両の燃料、現場事務所の電力、改修、廃材の再利用・再資源化も削減対象になります。
- 資材製造・調達
- セメント、鉄鋼、木材などの製造・輸送に伴う排出
- 施工
- 建設機械や車両の燃料、現場事務所の電力、施工時の廃棄物に伴う排出
- 使用・改修
- 空調、照明、給湯、設備更新などに伴う排出
- 解体・廃棄
- 解体工事、運搬、再利用、再資源化、最終処分に伴う排出
「会社の排出量」と「建物の排出量」を分けて考える
建築会社が自社の排出量を算定する場合は、社用車や重機の燃料などの直接排出(Scope1)と、購入した電力などに伴う間接排出(Scope2)から始める方法があります。一方、建物そのものの環境負荷を評価する場合は、建材や建物の使用・解体まで含む、より広い範囲を扱います。
算定を始める前に、目的と対象範囲を決めます
算定目的によって、集めるデータと対象範囲が異なります。
| 比較項目 |
会社・現場の排出量 |
建物のライフサイクルカーボン |
| 主な目的 |
自社や工事現場の排出管理 |
建築物全体の環境負荷評価 |
| 着手しやすい対象 |
燃料、購入電力 |
資材製造、施工、使用、改修、解体 |
| 最初の判断 |
本社・支店・現場のどこまで含めるか |
評価する建物とライフサイクルの範囲 |
ZEB・ZEHとカーボンニュートラルの違い
ZEB・ZEHは、高断熱化や高効率設備による省エネと、太陽光発電などの創エネを組み合わせ、建物を使用する段階の年間一次エネルギー収支をゼロに近づける考え方です。非住宅がZEB、住宅がZEHの主な対象です。
これに対し、建築物のライフサイクルカーボンは、資材製造や施工、設備更新、解体も含みます。ZEB・ZEHは建物を使用する段階の一次エネルギー消費量を減らし、年間収支を評価する考え方です。建物のカーボンニュートラル全体を考えるためには、資材と施工に伴う排出も別に確認する必要があります。
建築業でカーボンニュートラル対応が求められる背景
2025年の省エネ基準適合義務化はすでに施行済みです。今後は2030年度の省エネ性能引き上げと、建物のライフサイクル全体を評価する制度の動きも押さえる必要があります。
2025年4月
原則すべての新築で省エネ基準への適合が義務化
2025年4月1日以後に工事へ着手する建築物は、原則として、すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準への適合が必要になりました。床面積が10平方メートル以下の新築は適合義務の対象外で、増改築では増改築を行う部分が対象です。
2030年度以降
ZEH・ZEB水準の省エネ性能を確保する方針
ここでいう水準は、再生可能エネルギーを除いた省エネ性能を指します。2025年の基準適合をゴールとせず、断熱性能や設備効率をどこまで高めるかを早めに検討しておく必要があります。
2028年度目途
ライフサイクルカーボンの算定・評価制度を検討
国土交通省は、建築物のライフサイクルカーボンを算定・評価する仕組みづくりを進めています。設計や調達の段階から、建材の排出量データを扱う重要性が高まっています。
建築業のカーボンニュートラルに向けた主な取り組み
対策は、設計・資材・施工・運用・解体の5つに分けると整理しやすくなります。設備投資だけに偏らず、運用改善や調達方法も含めて検討します。
1
設計|エネルギー需要を先に抑える
外皮性能の向上、日射遮蔽、自然採光・自然換気などによって建物のエネルギー需要を抑えます。そのうえで、高効率な空調・換気・照明・給湯設備を選び、太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み合わせます。
設備を追加するだけでなく、建物用途、使用時間、地域の気候、将来の改修まで踏まえて計画することが重要です。
2
資材|低炭素建材・木材を適材適所で選ぶ
資材製造時の排出を減らす選択肢として、低炭素型コンクリートや木材などがあります。木材は、森林が吸収した炭素を建築物の中に貯蔵できる点も特徴です。
材料名だけで低炭素と判断せず、強度、耐久性、防耐火性、調達距離、コスト、納期、入手できる排出量データを比較して採用範囲を決めます。
3
施工|燃料・電力・移動・手戻りを減らす
建設機械や運搬車両の燃料、現場事務所の電力が主な管理対象です。省燃費運転、アイドリングの抑制、低燃費・電動建機への切り替え、再生可能エネルギー由来電力の利用、施工計画の改善などが考えられます。
国土交通省の直轄土木工事向け脱炭素アクションプランも、今後の技術選定や公共工事対応を考えるうえで参考になります。
4
運用・改修|計測して継続的に改善する
建物の引き渡し後は、電気や燃料の使用量を月別・設備別に把握し、前年や改修前と比較します。設定温度や運転時間の見直し、設備の保守、高効率設備への更新につなげます。
省エネ改修は、改修前後を同じ条件で測り、運用改善を続けるところまで計画しておくことが大切です。
5
解体・廃棄|分別・再利用を設計段階から考える
一定規模以上の工事では、建設リサイクル法に基づき、対象となる建設資材の分別解体と再資源化が必要です。更新しやすい納まり、異なる材料を分離しやすい構成、再利用できる部材の採用など、設計段階から廃棄物を減らす視点を持ちます。
中小建設会社がカーボンニュートラルを進める4つの手順
最初から建材や協力会社まで含むすべての排出量を算定しようとすると、データ収集が複雑になります。まずは社内にある請求書や日報を使い、測れる範囲から始めます。
1
対象範囲と担当者を決める
本社・支店・工事現場のどこを対象にするかを決め、燃料の使用によるScope1と、購入電力などに伴うScope2から着手します。経理、総務、現場管理、購買のうち、誰がデータを集めるかも明確にします。
2
燃料・電力・資材の使用量を把握する
請求書、燃料伝票、給油記録、電力使用量、重機の稼働記録などを集めます。排出量は、燃料や電力などの活動量に所定の排出係数を掛けて算定するのが基本です。資材まで対象を広げる場合は、主要資材から優先します。
3
削減策を費用と効果で優先順位付けする
排出量の大きい項目を特定し、運用改善、設備更新、エネルギー転換に分けて候補を整理します。投資を抑えやすい施策を先に行い、建機や設備の更新は通常の入れ替え時期と合わせます。
4
日報・購買・協力会社との運用に組み込む
作業日報に重機の稼働時間や燃料使用量を記録する欄を設け、購買時の確認項目に環境性能を加えます。協力会社と入力方法を統一し、月次や工事終了時に数値を振り返って、次の現場へ改善点を引き継ぎます。
環境省モデル事業に見る建設会社の取り組み事例
管理・現場
部門を分けて算定
4現場・約2か月
新しい日報を試行
2023年3月
全現場へ展開
管理部門と現場部門を分けて排出量を算定
管理部門では、燃料や電力などのデータをもとに排出量を整理しました。現場部門では、使用した機械の種類や諸元、台数、稼働時間を作業日報へ追加し、現場ごとの排出量を把握できるようにしています。
4現場で試行し、日報と運用ルールを改善
新しい作業日報を4現場で約2か月間試行し、現場担当者や協力会社が無理なく記録できる方法を検討しました。回収した情報は電子日報へ入力し、CO2排出量を自動集計できる運用へ整えています。
2023年3月から全現場へ展開
試行で見つかった課題を修正したうえで、2023年3月から全現場で排出量の算定を開始しました。
継続の鍵は、算定ツールを導入するだけでなく、日報、入力担当、協力会社との連携まで決めることです。
建築・建設業界のカーボンニュートラル
よくある疑問と解決のヒント
Q.建築業界における「カーボンニュートラル」は、具体的にどの範囲を指すのですか?
A.目的によって対象範囲が変わります。建設会社自身の排出量を管理する場合は、重機・車両の燃料や購入電力などから算定を始めます。建築物を評価する場合は、資材製造、施工、使用・改修、解体までを含むライフサイクル全体で捉えます。
最初に「会社」「工事現場」「建築物」のどれを算定するのかを決めておくと、数字の重複や漏れを防ぎやすくなります。
Q.省エネ基準適合義務化など、法規制はどう変わりましたか?
A.2025年4月1日以後に工事へ着手する建築物は、原則として、すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準への適合が必要です。床面積10平方メートル以下の新築など、対象外となる場合もあります。
また、2030年度以降の新築では、ZEH・ZEB水準の省エネ性能確保を目指す方針が示されています。個別案件では、最新の法令・自治体情報に沿って判断してください。
Q.設計事務所や工務店は、どのような技術や工法を検討すべきですか?
A.建物用途や予算に合わせ、次の順で検討すると整理しやすくなります。
1. エネルギー需要を減らす
高断熱化、日射遮蔽、自然採光・自然換気などで、空調や照明に必要なエネルギーを抑えます。
2. 設備を高効率化し、再生可能エネルギーを組み合わせる
高効率な空調・換気・照明・給湯設備を選び、設置条件が合えば太陽光発電などを検討します。
3. 資材と施工方法を見直す
低炭素建材や木材の採用可能性を確認し、施工時は重機の燃料、現場電力、移動、手戻りを減らします。材料は環境性能だけでなく、構造・防耐火・耐久性・コスト・納期を含めて判断します。
Q.中小の建設会社が投資を抑えて始められることはありますか?
A.まずは、すでにある請求書や日報を使った「見える化」と、現場の運用改善から始められます。
1. 燃料・電力を集計する:給油記録、燃料伝票、電気料金の請求書を月別・現場別に整理します。
2. アイドリングと空運転を減らす:重機・車両・発電機の運転ルールを現場で共有します。
3. 移動と手戻りを減らす:工程や資材搬入を見直し、不要な運搬や再施工を抑えます。
4. 分別と端材管理を徹底する:廃棄物の発生量と処分方法を記録し、次の現場の発注量へ反映します。
設備投資を急ぐ前に、どこで燃料・電力・資材のロスが生じているかを確認すると、優先順位を付けやすくなります。
Q.カーボンニュートラル対応には、どのようなビジネス上の意味がありますか?
A.法令対応だけでなく、施主への省エネ提案、工事原価の管理、公共工事や取引先から求められる環境情報への対応に活用できます。
ただし、取り組めば必ず受注や資産価値の向上につながるわけではありません。案件ごとに、施主の要求水準、追加費用、光熱費の削減見込み、補助制度、評価・認証の必要性を確認し、投資効果を説明できる提案にすることが重要です。
Q.建築・リフォームで使える補助金にはどのようなものがありますか?
A.住宅の省エネ改修、非住宅建築物のZEB化、既存建築物の省エネ改修などを対象とする支援制度があります。ただし、対象となる建物、申請者、性能要件、公募期間、予算残額は制度ごと・年度ごとに異なります。
契約や着工の前に申請が必要な制度もあるため、計画段階で公募要領と受付状況を確認してください。
補助金を前提に仕様や見積もりを確定せず、採択されない場合の費用負担も含めて施主と共有しておきましょう。